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子どもアイケアガイド #04

【眼科医監修】学力の低下に視力が関係 メガネをかけると成績が上がる?

2023.01.16

視力の低下は、子どもの学力の低下につながる恐れがある、との指摘が一部の研究者から出ています。一口に「学力の低下」と言っても、その背景には視力を含む子どもたちの身体的な要因以外に、教育機会の問題、教育や教師の質の問題などが考えられ、簡単に原因を判断できるものではありません。しかし、物が見えづらい状態を放置すると、学校の授業についていくことにストレスを感じるようになるのは確かで、それによって学力が伸びないということも考えられます。眼科医の森紀和子先生に、特に小学生の視力と学力の関係について話を伺いました。

目次
  1. 1日本の子どもたちの目はどれくらい悪いの?
  2. 2近視と学力の関係
  3. 3視力の悪い子どもはメガネをかけると成績が上がる?
  4. 4視力に合わせてメガネを変えるのが重要
  5. 5早期発見で学力低下を防ぐ 視力が下がったと感じたらどうする?
お話を伺ったのはこの方
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森 紀和子先生

1999年福島県立医科大学医学部卒業。2016年より慶應義塾大学大学院にて「近視」をテーマに研究。医学博士。2020年慶應義塾大学医学部眼科特任講師。2人の子どもを持つ親として、子どもの近視治療に力を入れている。

日本の子どもたちの目は
どれくらい悪いの?

まず、日本の子どもたちの視力事情について教えてください。

2021年度の文部科学省の調査(※1)では、全国の小学生の36.8%、中学生の60.6%、高校生の70.8%の裸眼視力が1.0未満という結果が出ています。1.0未満の原因として、日本では近視が最も多いといわれています。

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※1:文部科学省・2021年度学校保健統計調査
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1411711_00006.htm

実際に2019年に東京都内の小中学生約1400人を対象とした調査(※2)では、小学生689人のうち76.5%、中学生727人のうち94.9%が近視であるという結果が出ました。

国内で行われた別の調査(※3)では、1989 年から91 年の期間に中学校に入学した 12 歳の生徒における近視有病率が 43.5%でした。上記の調査と対象年齢の幅は違いますが、ここ20年で近視の子どもが急激に増えたことがわかります。

※2:Yotsukura E. et al. JAMA Ophthalmology.2019
https://keio.pure.elsevier.com/ja/publications/current-prevalence-of-myopia-and-association-of-myopia-with-envir
※3:Matsumura H.et al. Survey of Ophthalmology.1999
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0039625799000946

近視と学力の関係

子どもの学力と視力の関係について言えることはありますか。

視力が低下した時に、それに気がつかないことや、気がついたとしてもその状態を放置してしまうことがあります。黒板の文字が見えないことが原因で、授業の内容が次第に理解できなくなっていき、学力が落ちるということは理論的にはありえるでしょう。定期的な視力検査、眼科受診が必要です。

また、近視の発症は遺伝的な要因が大きいとされている一方で、環境的な要因もあります。その点で子どもたちを取り巻く教育環境も近視の増加の一因かもしれません。

教育環境が近視の一因とはどういうことでしょうか。

世界の地域別に見ると、アジアは近視の人が多いことが分かっています。日本を含めて、中国、韓国、インドなど、教育熱心な国が多く、受験生は長時間机に向かって勉強する習慣が強い傾向があります。必然的に近業作業が多くなり、屋外活動が少なくなることが近視の原因のひとつになっていると考えられます。

視力の悪い子どもは
メガネをかけると成績が上がる?

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視力が悪い子どもにメガネをかけさせたところ、成績が向上したという研究データ(※4)があります。この結果をどのように捉えますか。

ひとつの論文だけで結論づけることはできないと思います。物がはっきりと見えるということは、子どもの能力を引き出すために大切なことです。近視だけでなくあらゆる屈折異常に適切な矯正は必要です。

この研究では、日本の基準でいう視力1.0に満たない子どもにメガネをかけさせたようですが、一般的には0.7以上あれば、黒板が見えるので、学校生活には支障がないといわれています。しかし、遠視の場合に0.7ですと、近くの物を見るときにはより見えていないことになります。勉強をする時にノートなどが見えにくくイライラし、落ち着きがなくなるということが推測できます。どうして見づらいのか原因を診断し、適切な屈折矯正が必要です。自己判断せず眼科を受診しましょう。

※4:米国のジョンズ・ホプキンス大学などの研究チームが2016年から19年にかけて、小学3年生~中学1年生に当たる年齢の生徒2304人を対象に、比較試験を実施。2グループに分けた生徒の一方には視力検査に基づいて適切なメガネを与え、もう一方にはメガネを与えなかった。実験開始時と1年後に行ったテストの結果を2グループで比較したところ、メガネを与えられた生徒たちは与えられなかった生徒たちに比べ、成績が向上した。
https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/article-abstract/2783867

視力に合わせて
メガネを変えるのが重要

他にこの研究から得られる知見はありますか。

論文には、メガネを配布してから1年後の成績は伸びたが、2年後までは続かなかったと書いてあります(※5)。

子どもたちのために適切でかつ継続的な屈折矯正の介入を行ったうえでの結果ではない可能性もあります。短い期間でも子どもの視力は変わります。その時の視力に合ったメガネなどの屈折矯正法を用意してあげることが、子どもが快適に過ごしたり勉強したりする上で大切です。定期的に眼科を受診し、適切に屈折矯正がされているのかを診てもらいましょう。

※5:実験開始から2年後に行われたテストでは、メガネを与えられた生徒たちの継続的な成績向上は見られなかった。研究チームはこの理由を、生徒がメガネを壊したり紛失したりしたことで、だんだんとメガネをかけなくなっていったためとみている。

早期発見で学力低下を防ぐ
視力が下がったと感じたらどうする?

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子どもの視力低下のサインにはどのようなものがあるのでしょうか。

テレビを見る時に近づいて見るようになった、スマホやタブレットの画面を見る時、本を読む時に以前よりも目を近づける、遠くの物を見る時に目を細める——などといった行動が挙げられます。

とはいえ、子どものしぐさから視力低下に気づけない場合もあります。定期的に眼科を受診することで、子どもの視力を把握しましょう。

まとめ

黒板の文字が見えづらくなり、授業の内容を理解できなくなると、興味が持てなくなり、学力低下するリスクが上がる、ということは考えられます。海外では視力の悪い子どもたちにメガネをかけさせ、成績が向上したという報告があります。

子どもの視力低下は急速に進むこともあるため、その時の視力に合ったメガネをかけることが大切です。定期的に眼科を受診して、その時々の視力を把握してあげましょう。

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