年に1〜2回、小学校で定期的に行われる視力検査。判定はA〜Dまでありますが、「Aじゃなかったらどうするの?」「眼科の受診は必要?」「メガネをかけた方がいいの?」など、結果をどう受け止めるべきかわからない親は多いのではないでしょうか。今回は2人のお子さんを育てる母でもある眼科医の森紀和子先生に、学校の視力検査が意味するところ、眼科を受診するタイミングやメガネをかける必要性などについて伺いました。
1999年福島県立医科大学医学部卒業。2016年より慶應義塾大学大学院にて「近視」をテーマに研究。医学博士。2020年慶應義塾大学医学部眼科特任講師。2人の子どもを持つ親として、子どもの近視治療に力を入れている。
日本の小学校ではランドルト環という、黒い円が切れている方向を示す方法で測定し、結果を「ABCD」の4段階で以下のように評価しています。
A | 1.0以上 | 視力は良好。学校生活に影響なし |
---|---|---|
B | 0.9〜0.7 | 条件によって学校生活への影響がある |
C | 0.6〜0.3 | 教室後方からは黒板の字が見えにくいことがある |
D | 0.3未満 | 教室の前列でも黒板の文字が見えにくい |
参照:財団法人日本学校保健会「児童生徒の健康診断マニュアル(平成27年改訂版)」視力検査に関する受診勧奨兼受診報告書の様式(例)
CとD判定が多いですが、もちろん「以前はAだったのにB判定になったから心配で来ました」という方もいらっしゃいます。
両目ともA判定でない限り受診していただきたいと思います。その理由は、A判定でなかった理由をしっかり調べる必要があるからです。日本で一番多いのは近視の進行によるものですが、そうではない場合もあります。遠視や乱視、そのほか目の病気で起こってくることもあり、「早めに治療すればよかった」といった病気が隠れていることもあります。裸眼視力が0.7あれば学校生活で困ることはほぼないですが、B判定でも積極的に眼科を受診していただきたいと思います。
視力検査というのは「自覚検査」なので、自分から見ようと意識しなければ精度が出ません。学校の場合は周囲に大勢の子どもたちがいるでしょうし集中力がなかなか続かないでしょう。その点、眼科の場合は子どもの集中力が持続するように視能訓練士がうまくサポートするので、検査の精度が高くなります。
眼科では視力検査、眼底検査、前眼部検査などを行います。もし、お子さんの裸眼視力が1.0以下であれば、近視・遠視・乱視などの屈折異常があるかどうかを検査し、それを補った視力検査もします。さらに、調節麻痺剤という検査用の点眼薬(目薬)を使って、目のピント合わせる力、調節力を麻痺させて、自分の持っている本当の屈折異常が何か、また、どのくらいかを測定することもできます。
また、疾患によってはちゃんと両目で見ることができているのか、立体視ができているかも検査します。
目は、近くのものを見る時、目の中にある水晶体の厚さを筋肉で変化させて焦点を合わせます。この働きを「調節」と言い、調節する筋肉の力を「調節力」と言います。簡単に、焦点を合わせる力と言ってもいいと思います。
正確な屈折異常はなにか、どのくらいかを測るには、調節力が働いていない状態で検査をしなければならないのですが、子どもの目は調節力がとても強いため、筋肉が過剰に働いてしまうことがあります。そのため、本来は正視あるいは遠視であるのに近視という結果が出てしまうケースがあります。学校の視力検査は、そもそも学校生活に支障のない見え方であるかどうかをスクリーニングするため検査なので、そこまで精密に測定していません。
幼少期の屈折異常はメガネをかけないと弱視(メガネをかけても1.0出ないこと)を引き起こす可能性があります。弱視というのはメガネをかけてもものがはっきりと見えない状態のことを言い、将来視力を得るために幼少期からメガネを使って治療する必要があります。必ず眼科医の指示に従ってメガネをかけてください。自己判断で「メガネをかけない」ということのないようにお願いします。
軽度の近視は弱視になりにくいと言われており、以前は幼少期の近視について治療を積極的にしてきませんでした。しかし、最近になって強すぎる近視は、大人になってから失明につながりうる合併症を発症するリスクが高くなることがわかってきました。そのため、小児期から近視の進行をゆるやかにする治療が推奨されています。近視でも放置しないでいただきたいです。
幼少期は視力を発達させる大切な時期です。屈折異常やそのほかの目の疾患があるときは視力発達のためメガネが必要となることがあります。たとえば、幼少期の遠視にもメガネをかけることは大変重要です。遠視は遠くも近くもピントが合っていない状態で、メガネをかけないと弱視の原因になることがあります。弱視予防のために、遠視と診断された場合も医師の指示の下メガネをかけてください。
まず、その子にあったメガネをかけることは非常に大切です。度数は強すぎても、弱すぎても良くありません。メガネは医療器具です。子どもの目の状態をしっかり診て判断していますので、医師の指示、処方があった場合は必ず指示に従ってメガネを装用してください。
子どもの目は成長とともに変わります。目の状態を知るため眼科医の指示の下、継続的に受診してください。
メガネはフィッティングによって見え方がかなり変わるので、着用具合のチェックに来てください。子どもは「鼻めがね」と言って、鼻までメガネが落ちてしまうことが多いので、メガネのフレームの幅や角度、レンズの位置などがきちんとフィットしているのか、眼科や購入したメガネ店などで、定期的に確認してもらうことをおすすめします。
まず、目の調節をしない状態で遠くのものが網膜上に焦点が合うことで遠くも近くも良く見える状態が「正視」です。
「近視」は目の調節をしない状態で遠くのものが網膜より前方に焦点が合うことで、近くにはピントが合いますが、遠くのものが見えにくい状態のことです。
「遠視」は目の調節をしない状態で遠くのものが網膜より後方に焦点が合うことで、遠くのものも近くのものも見えにくい状態のことです。軽度の遠視の場合、調節をすることで遠方のものに焦点を合わせることができます。
「乱視」は角膜や水晶体のゆがみにより、網膜に焦点が合うポイントがいくつも生じるため、ものが多重に見える状態のことを言います。
目の異常には気づかないことが多いので、学校の視力検査で指摘を受けた場合には、速やかに眼科を受診することをおすすめします。
学校の視力検査は子どもの目の異常を早期に発見する良い機会です。視力検査の判定結果をどう受け止めればいいのか、森先生のお話が参考になったのではないでしょうか。学校の検査はあくまで早期発見が目的であり最終診断ではないということを念頭に置き、少しでも不安があれば積極的に眼科を受診してください。
メガネは、レンズの度が合っていること、フレームの形状が頭の形にフィットしていることが大切です。定期的な眼科受診でお子さまのメガネをしっかりとチェックするよう心がけましょう。