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子どもアイケアガイド #03

【眼科医監修】子どもの近視は治る?近視の原因から予防までを解説

2023.01.16

子育て中の親の中には、メガネやコンタクトレンズを常用している人も多いと思います。時代が進むにつれて、LASIKのように近視を矯正する新しい技術は登場してきましたが、できれば子どもには視力を悪くすることなく成長してほしいと思うのが親心でしょう。また、もしも子どもが近視になってしまった場合に元通りの目に戻すことは可能なのか、という点も気になるところです。眼科医の森紀和子先生に、詳しくお話を聞きしました。

目次
  1. 1近視のメカニズム
  2. 2要注意!近視を進める行為
  3. 3近視になった目を元通りにする方法はあるの?
  4. 4新たにわかってきた近視の予防法
  5. 5大人になると近視の進行は止まる?
お話を伺ったのはこの方
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森 紀和子先生

1999年福島県立医科大学医学部卒業。2016年より慶應義塾大学大学院にて「近視」をテーマに研究。医学博士。2020年慶應義塾大学医学部眼科特任講師。2人の子どもを持つ親として、子どもの近視治療に力を入れている。

近視のメカニズム

近視とは、どういう状態のことを指すのでしょうか。

まず、近視とは目に入った光が、目の奥にある網膜に適切に焦点を結べなくなる「屈折異常」の一種です。簡単に言うと、眼球が大きくなることで、前方から入ってきた光が網膜に届かず前方で焦点を結び、ピンボケしているような状態になることをいいます。

図 図

図のように、眼球が大きく、特に“奥行き”が長くなって角膜と網膜の距離「眼軸長」が伸びると、本来網膜で結ばれていた焦点が手前にずれてしまいます。それによって、ピントが合わなくなったのが近視という状態です。

ちなみに、遠視と乱視も屈折異常に含まれます。遠視は網膜より後ろで焦点が結ばれる状態、乱視は眼球の形状のゆがみなどが原因で、焦点が複数できてしまう状態です。

要注意!近視を進める行為

どのようなことをすると近視になる可能性が高まるのでしょうか。

近視は、遺伝的な要素が大きいと言われており、人種的に見ても日本人を含むアジア人には近視が多いというデータが出ています。ほかに環境的な要素でも近視は進行します。例えば、一定以上の近さで物を見て作業をすると近視が進行する可能性が高まるというデータもあります。具体的には、「30センチ以内」がその距離に当たります。

最近では、スマホやタブレットを使う子どもが増えています。テレビを見る時に、画面の30センチ前まで近づく人はまずいないと思いますが、スマホやタブレットはより近くで見ることが多く、近視進行の原因になりやすい行動と言えます。

近視になった目を
元通りにする方法はあるの?

一度、近視になった目を元通りにする方法はあるのでしょうか。

現時点の知見では、一度伸びた眼軸長を復元することはできず、残念ながら、いったん近視になってしまった目を元の状態に戻すことはできません。よって近視を「矯正」して見え方をよくすることが主な対処法となります。また、元の正常な屈折の状態に戻せませんが、近視進行をゆっくりにして将来の近視の程度を軽くし、合併症のリスクを減らす近視進行抑制治療は積極的に行われ始めています。

メガネやコンタクトレンズがもっとも一般的な近視の矯正法です。目の前のレンズを使って、眼軸が伸びて“遠く”なってしまった網膜に焦点をあわせる方法です。LASIKは近視矯正手術の一つで、レーザーを使って眼球の一番表面側にある角膜の形状を変化させ、目の屈折率を調整して網膜に焦点を移動させる方法です。つまり、メガネやコンタクトのレンズの代わりに、自分自身の角膜で屈折率を調整するわけで、メガネやコンタクトと一緒の「矯正」手段の一つです。メガネやコンタクトを使う必要はほぼなくなりますが、近視により伸びた眼軸長が元に戻るわけではないので、近視によって起こりうる合併症が発症しない、リスクが減るということはありません。実際、眼軸長が伸び続けている方はLASIKを受けても再度、焦点が合わなくなる可能性もあります。眼科専門医が行うLASIKは患者さんの年齢に下限を設けていますが、それも子どもは眼球の大きさが定まっていない可能性があるためです。

他にも近視の矯正方法はありますか。

寝る前に特殊なハードコンタクトレンズを装着し、起床時に取り外す「オルソケラソロジー」も近視の矯正方法として広く行われています。寝ている間に角膜の形状が矯正され、レンズを外した時にくっきりと見えるようになります。近視が治ったように感じるかもしれませんが、永続的なものではなく、オルソケラトロジーを長期に使用を中止すると、また元の眼鏡が必要な生活に戻ります。オルソケラトロジーは近視矯正法の一つですが、最近近視の進行を抑える方法としての注目も浴びています。

現在の眼科学をもってしても、一度近視が進行した目を元に戻すのは難しいのです。ですから近視に対しては、予防と進行抑制がとても大切になってきます。

新たにわかってきた
近視の予防法

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具体的に近視予防のためには何をすればよいのでしょうか。

外で太陽光を浴びてください。1日2時間以上が世界中で推奨されています。太陽光がなぜ近視抑制に効果があるのかという研究が世界中で現在行われています。そのひとつに太陽光に含まれる、紫外線に波長が近い紫色の光「バイオレットライト」を浴びるのが非常に有効だという研究(※1)があります。現在一般的に使われている住宅やオフィスの窓ガラス、通常のメガネのレンズはバイオレットライトをほぼ通しません。コロナ禍で外出を控えることが多くなり、ずっと室内にいて日光を浴びる時間が減ったために、近視が進んだという研究データ(※2)もあります。いずれも蛍光灯やLEDのライトの光では効果がなく、屋外の太陽光を浴びないと近視が進行したということを示しています。

また最近の研究では、太陽光を浴びることは認知症の予防など脳にもいい効果を与えるらしいということもわかってきています。おそらく人間の体にとって、太陽光を浴びることは本質的に必要なことなのだと思います。最近はタブレットを使った授業なども増えており、それ自体は多くの学習効果もあると思いますが、お子さんにはしっかり外に出て太陽の下で遊ぶ時間を作ってあげていただきたいです。

※1:Torii H et al.EBioMedicine. 2016
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28063778/
※2:近視予防フォーラム「新型コロナウイルスによって変化した子どもの生活実態」調査(2020年)より
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000060256.html

大人になると
近視の進行は止まる?

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大人になると近視の進行は止まると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

近視の進行は小学生くらいがピークです。それからは、進行がなだらかになり一般的には20歳ごろには進行が止まるとされていました。しかし最近の研究ではもう少し遅い26、27歳くらいで止まるとされています。中には40、50代でも進行する人もいます。そして強度の近視になればなるほど合併症のリスクが高くなります。

合併症にはどういった病気がありますか。

強度近視の合併症としては、眼球が大きくなること、眼球の形が変形することでものを見るために重要な視神経や網膜も引き伸ばされるようになり、発生すると考えられています。「網膜剥離(もうまくはくり)」「網膜裂孔(もうまくれっこう)」、「近視性視神経症」、「緑内障」「近視性脈絡膜新生血管症(きんしせいみゃくらくまくしんせいけっかんしょう)」「近視性黄斑症(きんしせいおうはんしょう)」「網膜分離症」などは、失明につながりうる疾患です。近視が進めば進むほど、上記の疾患の発症のリスクが高くなることが報告されています。

危険な合併症を防ぐために気をつけることはありますか。

まずは子どもの頃から「近視をできるだけ進行させない」ことが重要です。近視の進行が速い小学生までの対策は特に高い効果が出ることがわかっています。また、子どもの視力を心配している親自身も遺伝要因を持っていると考えられ、上記のような合併症を患うことがありますから、強い近視がある人は、定期的に眼科の診断がある人間ドック、専門の眼科ドックで検査を受けたり、かかりつけの眼科医をつくって受診したりすることをおすすめします。

まとめ

近視とは、目の”奥行き“である「眼軸長」が伸びることで焦点が合わなくなった状態を指します。遺伝と環境因子で進行し、根本的に治すことは現時点ではできませんが、近年、近視進行抑制治療が行われ、将来起こりうる近視による合併症を減らそうとする治療が行われています。

近視の予防や進行の抑制には、太陽光を浴びること、特に太陽光に含まれる紫色の光「バイオレットライト」を浴びることが有効です。近視や、その先にある合併症を防ぐために、子どもと一緒に外に出て遊び、太陽光を浴びることをすすめましょう。

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